「……ここは、これで良いの?」
「えっと……うん。 その後、これをはんだ付けして……」
「牧野ぉ〜、これはどこに置くんだぁ?」
「それは…入り口から5mぐらいの場所」
 隆之を中心に、お化け屋敷の準備は着々と進められていた。
 次から次へと飛んでくる報告や質問に的確な答えを出し、自分はギミックの制御プログラムを書き続けている。
 ……はっきり言って、もはや人間業じゃない…。
「……隆之君…大丈夫?」
「ん? あぁ、これぐらいへっちゃらだよ…」
「でも……目の下に隈が…」
 さすがに疲労を抑えきれないのか、隆之の目の下にははっきりと隈が浮かんでいた。
 それでも、その行動や判断力に今だふらつきや鈍くなっている様子はない。
 強靱な精神力と、リポ○タンDとコーヒーのおかげだろう。
 ……めちゃくちゃ体に悪そうではあるが……
「大丈夫だって……文化祭まで後2日、がんばらないと…」
「……隆之君は十分がんばってるよ」
 光の言うことに誤りはない。
 現に、これまでの隆之の働きはクラス全員が認めていると行っても過言じゃないだろう。
 パソコンやギミックの部品の入手、設計、制御。
 お化けになるための衣装やメイク道具、垂れ幕の確保。
 さらには、人選配置、視覚効果、音響、通路作成、予算の計算……etcetc。
 自分のクラスの出し物を完成させるためにこれほどの大仕事をこなしてきたのである。
 それだけではない。
 借りた備品のお礼と称して、電脳部と演劇部の手伝いも行っているのだ。
 ……今までぶっ倒れずにいるのが不思議でしょうがない。
「…ちょっと、休んだ方がいいよ?」
「……そうだな…。 このプログラムが完成したら、休憩をもらうよ…」
「……そうよ。 後は任せて、あなたは少し保健室で眠ってなさい」
 と、今まで自分の作業に集中していた琴子があきれたように言った。
 力があまりないため、大道具の仕事も出来ず、かといって細かい回路の組立も出来ない彼女は、隆之の補佐として、設置やレイアウトの指示を任されていた。
 …ちなみに、光の役所は、責任者の体調管理とバックアップ──つまり、隆之の身の回りのお世話をする係となっている。
 ……はかったな、絶対に…。
「そうさせてもらうよ……。 …よしっ、完成。 光、これをそれにつなげて」
「うん」
 パソコンに接続されたケーブルをギミックにつなげる。
 それを確認して、隆之がプログラムを始動させた。
「……。 …よし、ちゃんと動いているな……」
「それじゃぁ、隆之君。 保健室に行こう」
「へいへい……それじゃぁ、みんな、後任せたわ…」
『ごゆっくりぃ〜(ニヤリ)』
 一瞬、全員が怪しげな笑顔を浮かべたように見えたのは……うん、気のせいだね。

TACTICS SCHOOL FESTIVAL

〜隙あらばくらう、たとえ疲れていようとも〜

「はい、今日は一日安静。 絶対にベッドから出ちゃだめだからね」
「……わかってるって…。 …というより、そんな事出来ないよ…」
「……。 …やっぱり、つらかったんだ…」
「そりゃぁね…。 ほぼ毎日徹夜だったし……」
 体の疲れを押し流そうとするかのように、隆之は大きくため息をついた。
 確かにこの5日間は端から見ててもつらい物がある。
 帰ってからも部品とにらめっこしてどんなギミックが作れるか考えたりして、プライベートな時間もかなり削ってきたのだ。
「…正直…ぶっ倒れる直前だったよ…」
「まったく……。 君って、本当にバカだよね」
「ははは……否定はしない…」
「ば〜か、ば〜か、ば〜か」
「……怒るぞ?」
「怒れるの?」
「………。 …全快したら…思いっきりいじめちゃる」
 光、顔真っ赤。
 まぁ、この際、何をどういじめるのかは置いておくとして、保健室には何とも言えない穏やかな空気が流れる。
 心底リラックスしたのか、しばらくして隆之の口から寝息が漏れた。
「……すぅー……」
「……寝ちゃった…」
 つんつんと、隆之の頬をつつきながら、笑顔を浮かべる光。
 いつもは自分に意地悪な事をする隆之もこうなってしまえば、自分の思うがままだ。
 鼻をつまんだり、耳に息を吹きかけたり、髪の毛なでたり……と、普段出来ないことを思う存分繰り返す。
 ……ひかりん、そんな事して、後でただじゃすまないと思いますけど…
「ばれなきゃ大丈夫。 …それとも、言うつもり?」
 いえ、僕にそんな気はありません。
「だったら平気。 隆之君、寝てるんだし、ばれないよ」
 と、さらにいたずらを繰り返す光。
 ……あぁ、もう何が起きてもしりませぇ〜ん。
「ふふふ……。 ………」
 あたりをきょろきょろと見回し、人がいないことを確認する。
 そして、また隆之の顔に向き直ると、ごくっと喉をならした…。
 ……ひかりん、まさか襲う気かっ!?
「違うよっ! …ただ、ちょっと……キス…したいかなぁ〜って…」
 それでも十分襲うことには変わりないとおもうんですが……。
「いいの。 …隆之君だって、いつもやってることだもん……」
 何となく自分に言い聞かせているともとれる、言葉をつぶやき、光が顔を下げる。
 徐々に、近づく2人の唇。
 その距離、わずか5pと言うところで、それは起こった。
「光…人の寝込みを襲うのは感心しないな…」
「え…? んっ…」
 突然、頭の後ろに手を回され、引き寄せられた。
 もちろん、軌道修正なんてする暇ないから、光の唇はそのまま一直線、隆之の唇に塞がれてしまうのでした。
「んん〜〜っ! んんん〜〜っ!!」
 目とうなり声で、隆之を非難するも、いっこうに放す気配がない。
 いや、それどころか、腕の力はさらに強くなり、いつの間にか、光の口の中には、隆之の舌がぁ〜……。
 ……いわゆるディープキスって奴ですな、うん。
「……ふぅん……」
 頬をうっすらと赤く染め、瞳はとろんとしている。
 引き離そうとしていた手も、徐々にその力をなくしていき、今では従順に相手の舌に自分のを絡めている。
 …どうでもいいけど…ここ、保健室なんだよねぇ…。
「…ふぁ…。 はぁ…はぁ…はぁ…」
 息も絶え絶え、光は乱れた呼吸と心拍数を平常に戻そうと努力するも、はっきり言って無駄。
 ふか〜〜〜いキスがきっかけで表面に浮かんでしまった、情欲が鎌首もたげて頭の中を駆けめぐる。
 しかし、そこはやはりまだ常識がある光。
 この場が学校であるという言い聞かせ、何とか耐えている。
 ……ただ、かわいそうなことに、相手は常識人じゃなかった。
「さてと……光も満更でもないみたいだし……いただくとするかな(ニヤリ)」
「へ?」
「光ぃ〜、さっきまでのお返しをた〜〜〜ぷりとしてあげるよ。 利子つけて…」
「ちょ、ちょっと、待っ──」
「拒否権はありません」
 そういうや否や、さっさと光を捕まえると布団の中に引き込んだ。
 もちろん、光は抵抗したのだが……如何せん、最初のキスが聞いている。
 口では反抗している物の、あまり完全な拒絶を見せていない。
 ……ねぇ、本当にどうでもいいことだけど……ここ保健室だよ?
「大丈夫、かぎはかけておいた」
 ……始めからそのつもりだったのか、お前は…
「もちろん。 みんなにも後押しされていたし…」
 ……いじめっ子。
「はいはい、何でも良いから……ここから先はプライベート。 部外者はでっててね」
 しゃっと、ベッドの周りのカーテンが閉められた。
 ……カーテンの奥から、光の泣き声とも何ともとれる声が聞こえてきたのはそれから数秒後のことである。

「…どれぐらい進んだ?」
 あれから1時間後、隆之は元気いっぱい、やる気満々で教室へと戻ってきた。
 目の下に浮かんでいた隈も今は綺麗さっぱり消えており、疲労は綺麗さっぱり消えているようだ。
 ……一方、ただ看病しているだけのはずだった、光はというと……。
「…………(ぽ〜〜〜〜〜)」
 まさに心ここにあらず。
 顔を真っ赤にそめて、瞳は心なしか潤んでいるようなぁ〜……。
 そういえば、制服もちょっと着崩れている。
 何があったのかは……言うまでもないし、聞くまでもない。
「ほぼ8割方終了。 後は、みんなの衣装併せて、小細工の準備をすれば完成」
「そっか……それじゃぁ、最後の追い込みといきますかな」
「えぇ……。 …ところで…」
「何?」
「……光に何したの?」
「ちょっとお仕置き。 …まぁ、聞かない方がいいよ…刺激が強いから」
 それだけで、すべてを理解したのか、クラスの全員が、保健室で繰り広げられた情事が頭に浮かび、顔を赤く染めた。
 ……まぁ、ただ一人、鼻血まで出して昏倒している少年もいるが、みんな無視。
「……普通は疲れるもんよね?」
「うん、普通はね」
「じゃぁ、何でさっきより元気になってるのよ…」
「いや〜…なんか、光をいじめてると生き生きするというか、活力が芽生えるというか…」
 牧野(くん)って……もしかしなくても、サド?
 クラスの仲間全員の心に浮かんだ疑問……しかし、それを口に出す物はいなかった。
 ……まぁ、確認するまでもないもんな。
「……ところで一ついいかな?」
「なにかしら?」
「…いつまで、純をそのままにしておくつもりだ?」
「え…?」
 と、琴子の視線が、教室の床に赤い水たまりを作る純へとうつる。
 さすがに、出血しすぎたのか、体が痙攣しはじめている。
 ……いや、ちょっとやばいだろ……これ…。
「じゅ、純一郎君っ!? どうしたの!?」
「……まったく、純情を通り越して、バカだなこいつは…」
「とにかく、保健室に運ばないとっ!」
「…………保健室」
 どばっ!という、音と共に、純の鼻からさらに血が……。
 …た、確か……人間って10%の水分を失うと死ぬんだったよね?
 ………純、君のことは忘れないよ…迷わず成仏してくれ……。
「か、勝手に殺すな……」
 あっ、生きてた。

 さて、ところ変わって、電脳部。
 隆之の加勢があったおかげか、予定がかなり早まり、今はバグ取りの真っ最中である。
 うつっている画面から推測するに……どうやら、シューティングゲームのようだ。
「……部長、ちょっとここを見てください」
「何なのだ?」
「ここなんですけど……こうすると」
 キーを押すと同時に、自機が爆発、一気にGAME OVERとなってしまった。
 難しい顔を浮かべるメイ。
 どうやら、バグが見つかったようだ。
「…それで、原因は何なのだ?」
「……さっぱりです」
「むっ、ちゃんと探したのか?」
「もちろんです。 さっきから何度も何度もソースファイルとにらめっこですよ」
 ふぅと、息を吐きながら、その部員は目頭をつまむ。
 ちょっとした、マッサージのつもりなのだろうが、その効果はあまり期待できない。
「ちょっと、見せてみるのだ」
「どうぞ…」
 いくつかのキーを押したとたん、画面いっぱいにアルファベットと数字と記号の羅列が表示される。
 メイは、原因があるであろう場所まで行を起こると、画面とにらめっこを始めた。
「……むぅ〜……見にくいのだ…」
 数秒画面を見つめていたメイの言葉…これは決してメイがわがままなだから出た言葉じゃない。
 通常、ソースを書くときは字下げやコメント文などを入れて、他の人に見やすくなるように書いた方がいい。
 なぜなら、後で自分で見たときにわからなくなってしまうからだ。
 その時は、わかるように書いていたとしても、2週間もたてばそれはもはや他人のプログラムと変わらなくなってしまう。
 そして、いまメイが睨んでいるプログラムはその中でも最悪といっていい部類に入る物であった。
「……あぁ〜!! 誰なのだっ! こんなプログラムを書いたのはっ!!」
「部長、あなたです」
「へっ?」
 一瞬、彼の言うことが理解できなかったメイだったが、すぐさま思い出した。
 そう、確かに、この部分は2日ぐらい前に自分が書いた物だ。
 確かその時は、あまりにも眠くてちょっと意識が飛んでいたような……。
「…そ、そうだったのだ……」
「だから、部長にしか直せないんですよ。 何とか、発見してください」
「わ、わかっているのだ…」
 とは、言った物の、はっきり言って見当がつかない。
 半睡眠状態でかかれたせいで、かなり無駄な動作を繰り返している。
 ここまで動いていたのは、ある意味奇跡に近い物かもしれない。
 ただ、奇跡に近い物のために、バグが発見できない。
 それに、そのバグを取り除いたとしても、また新しいバグが生まれる可能性もある。
 プログラムにおいて、もっとも難解な所で……もっとも、楽しい場所である。
「全然、楽しくなんか無いのだっ!」
 あれ?
 もしかして、僕だけ? そう思うの?
「うるさいっ! 庶民は黙っているのだ」
 へぇ〜い……ちぇっ…。
「……はぁ〜……もう、全然わからないのだ…」
「メイちゃん、どうしたの?」
「せ、先輩っ! い、何時からそこに……」
「ん? 今来たばかりだよ。 それで、どうかしたの?」
「う、うむ……実は…」
 カクカクジカジカ……
「と、言うわけなのだ…」
「なるほどね……それは、大変だ…」
「…やっぱり、書き直す必要があるのだ…」
「……ちょっと、見せて」
 言うなり、メイと席を入れ代わると、隆之は問題の部分を一通り眺めると、備え付けの用紙に楕円や菱形といった図形を描いていく。
 フローチャートいう物だ。
「………。 なるほど……ねぇ…」
「先輩?」
「メイちゃん、ここ変数名が違ってるよ」
「えっ?」
「似てる名前が多いからね……きっと、勘違いして見落としてたんだ」
 キーをいくつか押して、間違いの場所を直す。
 後、ほかに間違いがないかを確認して……終わり。
「はい、これで良いはずだよ」
「う、うむ……庶民B」
「はい、早速起動します」
 パソコンの画面がゲームの画面に変わる。
 スタートして、ゲームを進めていく。
 そして、バグがあった場所へとやってきた。
 どきどきと心臓が鼓動を早める。
 そして、先ほどは自爆ボタンとなっていたキーが押された。
 結果は……成功。
「よし、後はまたバグ取りを繰り返して、完成だね」
「…あ、ありがとう……なのだ…」
「ははは……いいよ、メイちゃんにはいろいろとお世話になったしね…。 それじゃぁ、俺はもう行くよ」
 次は演劇部……その次はまた自分のクラスの準備だ。

「あっ…牧野君…」
 演劇部へ向かう最中、突然呼び止められた。
 振り向くとそこには、ちょっと戸惑い気味の八重花桜梨の姿があった。
「あれ、八重さん? どうしたの?」
「う、うん……実は、ちょっと困った事が起きて…」
 そこで一度一呼吸置くと、花桜梨はちらちらと隆之の顔色をうかがった。
 過去をいくらか吹っ切って少しは明るくなったが……まだまだ、ちょっとトラウマが残っているようだ。
「俺に出来ることだった何でも言ってよ」
「ほ、本当?」
「もちろん」
「よかった…。 …実は、家の出し物なんだけど…」
 花桜梨の話をまとめるとこうだ。
 クラスの出し物で喫茶店をやることになって、今までテーブルや装飾の準備をしていたのだが、あろう事か、クラスで料理が出来る人がいなかったらしい。
 花桜梨自身、コーヒーを入れることにはそこそこ自身があったが、料理は専門外。
 というわけで、料理が出来る人を探して、何とか手伝ってもらいたいと言うことだった。
「なるほどねぇ……何人ぐらい?」
「…当日は一人でいいんだけど……やっぱり、仕込みとかあるから、明日までに2人…」
「2人かぁ……一人は心当たりがあるんだけど……」
「…本当?」
 花桜梨がうっすらと安堵の笑顔を浮かべた。
 そんな花桜梨の表情を見ていると…やっぱり、心がくすぐったくなると言う物だ。
 これが、彼女の魅力だろう。
「あれ、たっくんっ!」
「…噂をすれば…」
「?」
「どうしたの、こんなところで」
「一文字さん、ちょうど良いところに」
「ちょうどいい? ボクになんか用?」
「実は……」
 カクカクシカジカ……
「…というわけなんだ…」
「ふむふむ……」
「……どうかな……」
 少々、不安と戸惑いのある表情で訪ねる花桜梨。
 こんな顔みて断れるだろうか?…いや、ない。
「うん、大丈夫だよ。 …えっとぉ〜…」
「私…八重花桜梨…」
「八重さんね。 うん、まかせてよ」
「…ありがとう…」
 安心したようにほっと息をつく。
 これで一人は確保できたわけだが……あいにくと、隆之にはもう一人、料理が出来る人の心当たりが無かった。
「さてと……もう一人はどうしようかなぁ?」
「あはは…。 何言ってるの、もう一人はたっくんで決定」
「はぁっ!?」
 予想だにしない話の流れに、隆之は過去最大級に情けない声を上げた。
 よっぽど間抜けな表情も浮かべてしまったのか、花桜梨、茜、共々、爆笑。
「……2人とも……ちょっと、カチンと来ちゃったかもしれないよ…」
「はっ!? ご、ごめん、ごめん」
「……わ、私も……つい…」
「ふんっ! いいもん、いいもん。 この怒りはすべて光に向けるから…」
 まてっ! それは八つ当たりという物じゃないのかっ!?
 あ〜あ……ひかりんかわいそうに……。
「はぁ〜……まぁ、それはいいとして…。 何で俺なんだ?」
「何でって……たっくん、料理できるでしょ?」
「ま、まぁ……一人暮らしだからなぁ…」
「え……そうなの?」
 知らなかったのか、花桜梨がキョトンとした表情で訪ねる。
 隆之はちょっとあきれ気味にため息をついた。
「八重さん……お見舞いに来てくれたときに教えたでしょ…」
「あ、あぁ……そういえば、そうだった……かな?」
 視線を逸らしつつ、ごまかし気味の声。
 実は数ヶ月前、隆之が風邪を引いたときに花桜梨がお見舞いに来たときがあった。
 その日はちょうど、光も来てなかったので鉢合わせになることは無かったが……よくよく考えてみると、本当に運が良かったと言える。
 …もしも光がいたら……八重さん、マジでやばい所目撃しかねないからな…。
 まぁ、それは置いておいて、その時、隆之は一人暮らしをしてる事をちゃんと言って合ったのだが……花桜梨は舞い上がり気味でちゃんと聞いていなかったと、そういった感じである。
 ……意外に抜けてるのね、八重さん。
「し、しょうがないじゃない……だって…」
 はいはい……大好きな人と2人きりになっててハイになってたんでしょ?
「そ、そんなんじゃ……」
 顔赤くして、否定しても…説得力ないですよ…
「? 八重さん、どうしたの?」
「えっ? な、何でもないの……うん…」
「…ならいいけど…」
「それで、たっくん? 手伝ってくれる?」
「……しょうがない、2人に頼まれちゃ、断れないよ」
 観念したように言っているが……実はこいつ、元々引き受けるつもりだった。
 …たく、何でもないところでも意地悪心が働く奴なんだなぁ…こいつ。
「…ありがとう…」
「いいよ。 それじゃぁ、明日、手伝いにいくよ」
「ボクもね。 今日はまだバイトがあるから…」
「うん。 2人ともありがとう。 ……ところで、牧野君…」
「何?」
「時間大丈夫? どこかに行く途中だったみたいだけど…」
「え…? ……げっ!」
 花桜梨に言われてやっと思い出したようだな……。
 そう、こいつは元々演劇部に向かう予定だったのである。
 今頃、おしとやかなお姫様が妙な笑顔を浮かべて待っている頃だろう。
 ……や〜い、いい気味だ。
「うるさいっ! そ、それじゃな、2人ともっ!!」
「あっ……いっちゃった…」
「まったく……たっくんは優しすぎるというか……後先を考えてないというか…」
「……優しすぎるんだよ……うん」
「それもそうだね……」
 などといいながら、2人は隆之の後ろ姿を見送って──あっ、こけた。
 2人とも、悪いと思いつつも爆笑。
 光へのとばっちりが、また一段と強くなった。

「……ただいまぁ〜……」
 演劇部でさんざんにこき使われ、疲労困憊、不機嫌度MAX。
 せっかく消えていた目の下の隈が復活している。
「た、隆之君……どうしたの?」
「………。 …光…」
「な、なに?」
「…後で、思いっきりいじめちゃる」
「へ……? …な、ななな、なんでよぉおおぉ〜!?」
 訳も分からずただただ叫ぶ光は無視して置いて、準備の進み具合に目を向ける。
 自分がいない間にかなり進んでいたのか、もう完成と言ってもいいほどになっていた。
「…もう、こっちの準備は終わったな…」
「えぇ、大半はあなたのおかげだけどね」
「そういってもらえるとうれしいよ……それで、みんなの衣装は?」
「男子は今、着てもらってるわ」
 琴子の言うとおり、目のつくところには、女子の姿しかない。
 控え室では、今頃男子が自分に振り分けられた衣装に腕を通している頃だろう。
 ……って、あれ? なんかおかしいような……。
「……俺は?」
 あっ、こいつも男子じゃん。
 お前は、衣装は?
「…いや、渡されて無いけど…」
「さっきもいったでしょう? これはあなたが作ったようなものよ」
「…だから?」
「もう、琴子…それじゃぁ、わからないって…。 要するに、文化祭当日は手伝わなくていいってことだよ、隆之君」
「へ? じゃぁ、俺は遊んでていいと?」
「そういう事よ。 これまで、ずいぶんと苦労させちゃったみたいだしね…そのお礼」
「ありがとう……と、言いたいところだけど……一人で回ってもなぁ〜…」
「その事なら心配ないわよ……」
「?」
「はい、これ。 文化祭当日のみんなの役割分担」
 琴子から渡されたB5用紙には時間と生徒の名前が書かれていた。
 どうやら、この時間に名前が書かれていないメンバーは暇という事だろう……。
「あれ?」
 じ〜っと眺めていた隆之が、あることに気がついた。
 ……なにを発見したんだ?
「水無月さん…? 光の名前が見あたらないんだけど……」
「えっ?」
 隆之に続いて、光も分担表に目を向ける。
 確かに、名前がない。
「……どういうこと?」
「光、あなたにはもっと重要な役割についてもらう予定なの…」
「重要な役割?」
「そう…どうせ、牧野君の事だから、せっかく自由にしてあげたのにこっちを手伝おうとするに決まってるわ…」
「……否定はしない」
「うん、私もそう思う……それで?」
「あなたには、牧野君がそうしないように、ずっとそばにいて監視してもらいたいの」
「ふ〜ん……。 ……えぇ〜!?」
 一拍置いて、やっとその意味に気がついたのか、光が驚きの声を上げた。
 つまり、当日は2人で文化祭デートでもしてろというわけだろう……クラス公認で。
「いやなの?」
「い、いやじゃないけど……いいの? 私が手伝わなくて…」
「お化け屋敷であなたが何を手伝えるというのよ……」
「あ、あはははぁ〜……」
 そりゃそうだ。
 人智を越えた恐がり&泣き虫な光がいくらクラスでの出し物だとしてもお化け役なんて出来るわけがない。
 どうせ、脅かそうとして、逆に脅かされて泣くに決まっている。
 それだったら、隆之と一緒に出かけさせてしまおうという考えに至ったのだ。
 このことは、クラスのメンバー全員が知っている。
 ……まぁ、唯一知らないと言えば、最高責任者の23歳彼氏なしぐらいだ。
「なるほどね…。 わかった、お言葉に甘えさせてもらうよ」
「……って言っても、変な事はしないでよ。 あくまでも、文化祭を楽しんできなさい」
「……ちっ」
「し、舌打ちなんてしないっ! こ、今度は絶対にだめだからね」
 自分の身の安全のため、一応釘をさして置くが……こいつは絶対に守りそうにない。
 現に、頭の片隅で当日の計画を練ってるし……。
 …と、その時、男子が着替え終えたのか、控え室から出てきた。
「ひっ!」
 先頭のドラキュラ(純一郎)を見て、瞬時に隆之の後ろに隠れる。
 もうすでに、涙目だ。
 ……う〜ん…可愛いと思うけど……ちょっと異常な気がするなぁ〜…。
「しょ、しょうがないでしょ……怖いんだから…」
 …っていうより、こうすれば甘えられるもんなぁ?
「そ、そんなんじゃ……ないもん…」
 はいはい…。
「おぉ〜純。 血が足りないからって、誰かから奪うつもりか?」
「う、うるさいっ!」
「……やっぱり、水無月さんの?」
 スパンっ!!!!
 うなる、スリッパアタックっ!
 教室中に心地いい音を響かせた。
「な、なな、なんて事言ってるのよっ!」
「……痛いじゃないか…」
「どっかの戦争バカみたいな事言うんじゃないわよっ! あっちはハリセンでしょ」
「おっ、よく知ってるな」
「……そういえば琴子って似てるよね?」
 うん、僕もそう思う。
 水無月さんは、完全につっこみだからねぇ。
「そうなの? じゃぁ、ボケは?」
 ひかりん……あなたに決まってるでしょ…。
「えぇ〜、うそぉ〜っ!?」
 信じられない?
「…うん」
 それじゃぁ、聞いてみましょう。
 ひかりんがボケだと思う人、お手上げっ!
『ハイっ!』
「み、みんなぁ〜……ひどいよぉ」
「光、諦めろ…」
「……それよりもさぁ、みんな着替えなくていいの?」
 と、匠。
 なにやら、落ち着きがない。
 ……見るからに怪しい。
「……。 あっ、みんなちょっと待って」
「え?」
「俺、向こうに荷物起きっぱなしだったから、ちょっと取ってくる」
 というなり、控え室へと入っていく隆之。
 …なんだか、匠くんが慌てて止めようとしていたが……
「き、気のせいだよ…」
 ふ〜ん……怪しいねぇ〜…
「な、何でもないよ」
「いや〜、ごめんごめん」
「…あれ? 隆之君、そんな紙袋持ってたっけ?」
「いや、これは匠の忘れ物」
「ぼ、僕の?」
「そう…。 ハイこれ」
 妙な笑顔を浮かべつつ手渡す隆之と対照的に冷や汗いっぱい、引きつった笑顔を浮かべる匠。
 …いったい、あの中には何が入っているんだろうか?
「………。 早めに隠して置いた方がいいぞ? ばれたら…」
 ダッシュっ!!
 ドップラー現象が起きそうなほどの神懸かり的な走りを見せて、匠は教室を飛び出した。
「……たく…。 盗撮は立派な犯罪だっつうの」
 坂城匠……落ちる所まで落ちた男。

 こうして、文化祭の準備は平和に──少々、疑問が残るが、すぎていった。
 …そして、文化祭。

〜to be continued〜

小休止

だはははははっ!!!
でたぁ〜、ゆたかの悪い癖がぁ〜!!
な〜んかねぇ〜…書きたくなってきちゃうのよ。
昔から言うでしょ?
好きな人ほど、いじめたくなるって。
……さ〜てと、当日はいったいどうなるかなぁ〜?
まぁ、だいたい予想できると思うけど。