『ワイワイ、ガヤガヤ・・・』
学食の食堂の中で、大勢の学生が利用している。
その食堂の一角で、私をはじめ、陽ノ下さん、水無月さん、白雪さん、八重さんと珍しく顔を合わせていた。
「今日の講義はまったくわからなかったね」
「何言っているのよ。
 毎日、毎日、同じ事を言っているじゃない」
お茶を啜りながら、水無月さんが陽ノ下さんに言った。
「こ、琴子ぉ!」
「ふふふ・・・。
 相変わらずね」
1・・・2・・・3・・・4・・・・・・。
私はその話を聞きながら、編物をしていた。
早く作らなくちゃ。
「佐倉さん、何を作っていらっしゃるのですか?」
「え?」
白雪さんの声がして、私は手を止めた。
「そうだね。
 編物を熱心に作る佐倉さんを見るのは久しぶりだね」
「そ、そう?」
『うん』
うろたえる私に、4人が同時に頷いた。
「・・・で、何を編んでいるの?」
「え・・・えっと」
「なに?また隠し事するつもりなの?」
「う・・・」
水無月さんの指摘に私は言葉を詰まらせた。
「そうですよね。
 西川さんと同棲している事も隠していましたからね」
「か、隠してなんか・・・」
「でも私たちに黙っていたのは本当でしょ?」
「や、八重さんまで・・・」
うう・・・みんなの視線が冷たい。
私と隆君が同棲している事は既にみんなに知られている。
だけど、もう一つだけみんなに教えていない事がある。
それは・・・。
「あのね・・・私、明日結婚するの」
「え!?」
「け、結婚!?」
私の告白に白雪さんと陽ノ下さんが同時に声を上げた。
「それはおめでとう!」
「よかったぁ!これで、隆君を狙う人が一人いなくなったね」
「ええ、これで安心です」
え?彼を狙う?
「後は、白雪さんとの一騎打ちだね」
「そうですね」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
な、なんか二人ともすごい殺気が・・・・・・。
「残念だけど、二人の一騎打ちはないよ」
『え?』
八重さんの言葉に二人は声を上げた。
「ど、どうして?」
「だって、佐倉さんの結婚相手が西川君だもの」
「へ?」
「なっ!?」
「・・・・・・・・・」
ふふふ・・・みんな驚いている。
そう、私は彼と結婚するの。
「どうして、結婚することにしたの?」
「そ、そうです!
 結婚する理由を教えてください!」
珍しく、白雪さんが取り乱している。
仕方がないよね。
だって、本当の事だもん。
「実はね・・・」
「・・・・・・・・・」
「早く言いなさいよ」
水無月さんが痺れを切らせ、話を急かせた。
私は編物をしている手を休めると、軽く息を吐いた。
「・・・・・・私のお腹の中に彼の赤ちゃんがいるの」
その後に水無月さんが口の中のものを吹いたのは言うまでもなかったね。


騒がしい結婚式



「ふう・・・、ようやく仕事が終わった」
そう呟きながら、俺の乗った車はひびきの市街を走っていた。
まったく、明日は大事な結婚式だっていうのに、父さんがバイト先からの結婚祝だって変な仕事は押し付けられるし・・・・・・。
まあ、おかげで収穫もあったし。
「さて、そろそろ帰ってきてる頃かな?」
アパートの駐車場に車を停めると、エンジンを切って車から出た。
久々の故郷の空気か・・・。
体を伸ばしながら、俺はアパートに向かった。

「まったく、あれほど遅刻するなって言っておいたのに・・・・・・」
目の前に脱ぎ捨てたパジャマが床に転がっていた。
朝が弱い事は、同棲する以前からわかっていた。
「はあ・・・」
ため息をつくと、パジャマを拾い寝室へと向かった。
帰ってくるまで一休みしようと俺の本能がそう言っているからだ。
つ、疲れた〜〜〜〜。
倒れこむように俺はベッドに横になった。
こりゃあ、かなり休まないと式の最中に居眠りしちゃうな。
「・・・しかし、まさか出来ちゃったなんてね」
朦朧とする意識の中、机の上に置かれている一冊の手帳が外の光に照らされていた。
楓子の母子手帳だ。
俺たちは彼女の妊娠が発覚した次の日にお互いの両親に報告をした。
楓子の両親はその事を知っていたのだが、俺の両親はまったく知らされておらず酷く驚いていた。
「ははは・・・、俺も父親になるのか・・・・・・」
そう呟くと、俺の意識は深い海に潜るように沈んでいった。


「こんにちは」
「こんにちは」
近所の人に挨拶すると、その人は私に向かって丁寧に挨拶してくれた。
「隆君、帰っているかな?」
腕時計を見ると、3時を回っていた。
彼が戻ってくるのは2時半くらいって言っていたし、もう帰っているよね。
「あ、佐倉さん」
「沙希さん」
この人は神矢沙希さん。
私のお友達であって、隆君のライバルの奥さん。
事情があって、私たちのお隣に引っ越してきたの。
「どうですか?新婚生活は」
「ええ、浩一郎君も頑張っているわ。
 ただ・・・」
「ただ?」
「相変わらず、西川君の事を意識しているわ。
 “あいつには負けられない!”って・・・・・・」
ふう・・・神矢さんも変わらないなぁ。
私も隆君を監視しなきゃ。
「ところで、明日結婚するんだって?」
「ええ・・・」
「へえ・・・、よく彼が承諾してくれたわね」
「実は・・・」
私は結婚までの経緯を簡単に説明した。
話を聞いた沙希さんはちょっと驚いた顔をしたけど、すぐに嬉しそうな顔をした。
「ホントに実行するとは思わなかった・・・」
「だって、彼を危険な事から遠ざける方法はこれしかないって、教えてくれたのは沙希さんだよ?」
「それはそうだけど・・・・・・」
「いいじゃない。
 それより、隆君は帰ってきました?」
「え?うん・・・車があったから、戻ってきているわよ」
ホント!?
じゃあ、明日の事を話し合わなきゃ!
「じゃあ、また明日!」
「ええ」
沙希さんにお辞儀すると、駐車場に入った。
沙希さんの言った通りに、彼の車があった。
帰ってきたんだ!
慌ててアパートに入ると、急いで部屋に入った。
「ただいま!」
し〜〜〜ん。
あれ?返事がない・・・。
靴はあるけど、どうしたんだろう?
リビングには彼の鞄があるし・・・、寝室かなぁ?
そう思った私は、寝室へと向かった。
そこには彼がうつ伏せになりながら、寝息を立てていた。
「もう・・・、鍵をかけないなんて無用心すぎるよ」
「すぅ・・・すぅ・・・」
「でも・・・、お帰りなさい」
私は微笑みながら彼の頬にキスをした。
「う・・・ん?」
あ、起きた。
「あれ?いつ帰ったの?」
目を擦りながら、彼は体を起こした。
「さっきだよ。
 鍵をかけるのを忘れているよ」
「あ、いけね」
頭を掻きながら、彼は「しまった」という顔をしていた。
えへっ、ちょっとうっかりしているあなたが好きだよ。
「それよりも、明日が楽しみだね」
「そうだよな。
 婚姻届は先週提出したし、後は式だけなんだよな?」
「うん」
そうなんだよ。
結婚式挙げないと、お腹の子がかわいそうだよ。
「必ず幸せにするよ、楓子」
「うん・・・」
彼がそう微笑むと、私に優しいキスをした。
もう・・・ホントにキスは上手なんだから・・・・・・。


―翌日―

「う〜む」
「どうしたんだ?」
式場の控え室で俺は唸り声をあげていた。
どうも、嫌な予感が頭から離れないんだよな・・・・・・・。
「いや、今日の結婚式はすんなり終わりそうもない気がしてさ・・・・・・」
近くにいた父さんに話すと、窓に近づいた。
俺の心とは違って、外は綺麗に晴れていた。
「気にしすぎじゃないか?
 長い間、戦いに身を置いていたから、神経が研ぎ澄まされし過ぎているんだ」
「そうかな・・・」
父さんの言葉に俺は過去の事を思い出した。
・・・確かに今まで、生と死の戦いに身を投じてきたからな。
「それよりも、お前はあの子の夫になるんだ、いい加減に心配させるなよ。
 子供のためにも・・・・・・」
「それは父さんだってそうだろ?」
微笑みながら答えると、父さんは目を閉じて微笑んでいた。
自分も人のことが言えないからな・・・言い返せないだろう。
「西川さん、そろそろ時間です」
「あ、はい・・・」
式場の人が俺を呼びに来ると、すぐに部屋を出て行ってしまった。
さて、人生最大の大イベントをこなしてきますか・・・緊張するけど。

式場には大勢の人が参列していた。
大半が俺の身内だ。
かああ〜、ホントに緊張してきた。
ピクッ・・・。
おいおい、誰だよ。
こんなめでたい日にケンカを売ろうとしている奴は・・・・・・。
いけね。
つい、いつもの癖で拳を握っちゃった。
ん?
入り口の方を見ると、父親と連れ添っている楓子が姿を現した。
(ぽけ〜〜〜〜〜〜〜)
うそ・・・ウェディングドレスを着た楓子って、こんなに綺麗だったのか・・・・・・。
そんな楓子に見とれていると、殺気が更に激しさを増した。
「どうしたの?」
え?
俺の顔を見ながら楓子が心配そうな表情をしていた。
彼女を安心させるかのように、俺は微笑んだ。
彼女のお父さんの顔を見ると、微笑みながらゆっくりと頷いた。
楓子が俺の隣に歩みを進めると、ゆっくりと壇上に上がった。
神父さんの前に立つと、音楽が止まった。
「今日という日を神に感謝して―」
はあ・・・始まったか。
校長の話並に長いから、軽く聞き流そう・・・・・・。
それにしても・・・どこから送っているんだ?
俺は話を聞き流しながら、あたりに気を張り詰めた。


神父様の話を聞きながら、私はクライマックスの場面を待っていた。
指輪の交換でしょ、それから誓いのキス・・・最後のブーケ投げ。
ああんっ!
早く来ないかな♪
私はチラッと横目で彼の表情を見た。
彼の顔がすごく険しかった。
緊張しているのかな?
「新郎、隆」
「え?あ、はい」
もうっ!ボーッとしていたでしょ。
「どんな時でも、楓子を妻として愛す事を誓いますか?」
きたきた、早く聞きたいな
「はい・・・誓います」
きゃ〜〜〜っ、やった
「では、新婦、楓子」
「はい」
「あなたは、生涯隆を夫として愛する事を誓いますか?」
「はい・・・誓います」
「では、指輪の交換と誓いの口付けを・・・・・・」
神父さんは箱を持ってくると、私たちに見せた。
その中には、小さく光る指輪が2つ入っていた。
この指輪は初めて彼と共に旅に出たときに骨董屋から手に入れたものだ。
この指輪を私たちの結婚指輪にしようって、彼に言った時は驚いた顔をしたよね。
私が彼の薬指に指輪をはめると、彼は私の左手を優しく持った。
チラッと私の表情を伺うと、ゆっくりと指輪をはめた。
その時、私の目の前が一気にぼやけた
あれ?嬉しいはずなのに、何で泣いているんだろう?
私の顔を見た彼は、ニコッと微笑むとヴェールをめくって、そっと私にキスをしてくれた。

バンッ!!

突然、扉が開かれると、その場にいた全員が一斉に向いた。
そこには泣きそうな表情を浮かべた光が立っていた。
あちゃ〜、またとんでもない問題を起こす奴が現れた。
「ひっ・・・ひっ・・・」
しゃくりあげながらも、光はキッと楓子を睨んでいた。
「陽ノ下さん!いい加減にしてよ!!
隆君は私と結婚するんだから!!!」
俺を庇うように、楓子が前に立った。
はあぁ・・・ちゃんと身辺整理をやったはずなんだけどな・・・・・・。
しかし、まだ諦めていなかったのか・・・こいつ。
「うう・・・まだ諦めないもん。
 隆君は私のものだもん」
私のもの・・・って、いつからそうなったんだ!?
うむむ・・・こりゃ、一騒動起きそうだな。
「佐倉さん、勝負よ!」
「え!?」
「勝った方が、彼と一緒にいる・・・どう?」
おいおい・・・どうやったら、こんな展開になるんだよ。
「・・・・・・・・・」
楓子は顔を伏せたまま黙ったままだった。
すっ・・・。
「隆君?」
気がついたときには、楓子の前に立っていた。
「隆君どいて!」
「・・・やだね」
「どいて!」
光が大声で言うが、俺は決してどかなかった。
「その勝負、俺が楓子の代わりに受けてやる」
「なんで!?女の勝負なんだよ?」
「だからだ。
 何の勝負かは知らないが、楓子のお腹には俺の子供がいるんだ。
 流産なんかさせたら、旦那として失格だ」
「・・・隆君・・・」
『ザワザワ・・・』
参列者が、騒ぎ始めた。
そう・・・親戚には出来ちゃった結婚とは言っていない。
その時、俺の腕を楓子が掴んだ。
「私、その勝負受ける」
「楓子!?」
「私はいつも隆君に守られてばかりだったんだよ?
 だから、今度は隆君を守ってあげたいの」
「しかし・・・」
「お願い。
 陽ノ下さんと決着をつけたいの」
け、決着って・・・。
しかし、こんなに熱くなっている楓子を見るのは初めてだ。
もう、俺がとやかく言う権利はない。
「・・・わかった」
「隆君・・・」
「ただし、体に負担がかかる事だったらすぐに止めさせるぞ」
「うん!」
元気よく頷くと、楓子は再び俺の前に立った。
「さあ、陽ノ下さん。
 勝負をしよう!」
楓子が元気のいい声で言うと、光も力強く頷いた。


「決闘はいたってシンプルだからね」
「うん!」
私たちは互いに距離を取っていた。
そして、右手に持っているのはペイント弾が入った銃。
8発中1発でも相手に当たればその人の勝ち。
隆君のお父さんが提案した勝負方法だ。
「じゃあ、始めるぞ。
 制限時間は5分、戦闘範囲は教会の敷地内だ」
その言葉に私たちは頷いた。
私、負けないもん。
絶対に隆君を取られたりしないから。
私の事を彼は心配そうな表情で見ていた。
そんなに心配しないで・・・あなたが真剣勝負をする時の気持ちが何となくわかったから・・・・・・。
「時間切れや相打ちの場合は、残りの弾数が多い方が勝ちだ」
『はい!』
「よし、始め!」
合図がかかると、私たちは間合いを離した。


ズガアァァァァァァンンンンンンンッ!!
俺の目の前で二人は同時に引き金を引いた。
・・・ただし、当たったのは俺の背後にいる人だけどね。
「まったく、せっかくの晴れの日なのに・・・余計な物を持ってきてくれるよ」
「そう言うな。
 彼女達もお前の事を愛しているんだから・・・」
「そうじゃないよ」
「え?」
父さんは顔をあげると、俺は背後にある草むらに向かって隠し持っていた物を投げた。
ゴンッ!!
草むらから派手な音がすると、すぐに悲鳴が上がった。
「ぎゃああああああああっ!!」
「な、なんだ!?」
にやっ。
やっぱりな・・・。
「俺の睨んだ通りだ。
 必ず日本にやってくるってね」
「だ、誰なの?」
草むらから出てくると、男が地面にのた打ち回っていた。
母さんを押しのけ、俺はそいつの前に立った。
「どうだ?
 あんたのような暗殺者を歓迎するために、わざわざアフリカの研究室からヒルを取り寄せたんだ」
「ヒ、ヒル!?」
「あ、暗殺者って・・・」
俺の背後にいた楓子のお父さんと俺の母さんが驚いた声を出していた。
「こいつは1ヶ月前に父さんと俺が二人で壊滅させた組織の生き残りだよ。
 もちろん、ICPOからの依頼でね」
そう・・・、父さんは若い頃に考古学者で名をはせていたと同時にICPOの捜査官でもあった。
そして、俺が生まれてからは捜査官を辞めると同時に考古学者の名誉をも捨ててしまった。
だが、ICPOは父さんの妻の父・・・爺ちゃんに父さんを国際警察の捜査官兼フリーライターとするよう説得した。
「さて、答えてもらうぞ。
 誰の命令でここに来た?」
そいつの髪を掴み乱暴に持ち上げた。
そいつの顔はヒルに血を吸われたせいか、顔色が蒼かった。
「言った方がいいぜ。・・・でないと死ぬぞ」
「い、言います!言います!
 俺たちのボスがお前達を消せって言ったんだ!!」
「ほお〜〜〜」
つまり、俺たちに恨んでいるって事になるのか・・・・・・。
「ちなみにボスは?」
「そ、そこの森の中だ。
 ・・・な、なあ、ちゃんと正直に言ったからいいだろう?」
「俺は見逃していいけど・・・ただし、そこのおじいちゃんは見逃してくれそうにないぜ」
「へ?」
そう言うと、爺ちゃんはそいつの手首を掴むと、持っていた手錠をかけた。
「お前を銃刀法違反の現行犯で逮捕する」
「・・・連行する前に、そいつを病院で輸血させてあげてよ」
「わかっとる」
爺ちゃんは笑いながらそう言うと、一緒にいた部下と出て行った。
「さて・・・」
「ああ・・・」
二人が戦っている姿を見ると、俺と父さんは互いに頷いた。
「じゃ、母さん。
 父さんと一緒に、森のゴミ掃除に行ってくるから」
「り、隆!」
「結婚式をメチャクチャにされた怒りを発散しなきゃ」
そう言うと、父さんと共に森の中に入った。
「・・・ほら、お前の相棒だ」
父さんはそう言いながら、俺に銃を放り投げた。
「ヒュウ!こいつはデザートイーグルじゃないか。
 ICPOが送ってきたのかい?」
「いや、俺の権限で持ってきた」
さすが父さん・・・。
伊達にICPOの長官候補言われただけの事はある。
ま、弾を持っている俺も人のことは言えないけど・・・・・・。
「さて、ウサ晴らしに行こうか」
「うん!」
俺は力強く頷くと、父さんと共に森の中を駆け抜けた。


「はぁ・・・はぁ・・・」
つ、疲れちゃった・・・。
でも、ここで負けちゃったら隆君が取られちゃうもんね。
お互いに7発ずつ撃っちゃったから、銃に入っているのは最後の1発。
ウェディングドレスで戦っているから動きづらいよ〜〜〜〜〜。
ウェディングドレス!?
・・・反則だけど、これしかないよね。
うまくいきますように・・・・・・。
「えいっ!」
ヴェールを空高くに放ると、ビシッと音を立てて赤く染まった。
今だ!
私は立ち上がると、驚いたまま銃を構えている陽ノ下さんに銃口を向けた。
バンッ!
ズゴオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンン・・・・・・・。
引き金を引くと同時に、激しい銃声があたりに響いた。
「・・・私の負けだよ」
陽ノ下さんはそう言うと、銃を捨てた。
え?
・・・私が勝ったの?
改めて陽ノ下さんを見ると、左肩にペイントが当たったと思われる染みがあった。
「おめでとう・・・隆君と幸せになってね」
「陽ノ下さん・・・」
「そんな顔をしちゃダメだよ。
 隆君・・・誰かが自分の為に泣いちゃうとわかると・・・・・・自分まで悲しくなるタイプなんだから・・・・・・・」
「う・・・うん・・・・・・」
「じゃあね・・・バイバイ」
一瞬だけ悲しそうな表情をすると、陽ノ下さんは逃げるように教会から出て行った。
陽ノ下さん・・・ごめんなさい・・・・・・・。
私・・・彼と2度と離れたくないから・・・・・・・。
「楓子、大丈夫なの?」
「あ、お母さん」
お母さんが慌てて私のところにやってきた。
へへ・・・もう、疲れちゃった。
「私・・・勝ったよ」
「もう!笑ってる場合じゃないでしょ!
 赤ちゃんにもしもの事があったらどうするの!」
えへへ・・・怒られちゃった。
でも、人のために戦う彼もこんな気持ちになるのだろうか?
後で訊いてみようかな?
「隆君は?」
「そ、それが・・・・・・」
私はお母さんから話を聞くと、すぐさま立ち上がった。
「えーっ!?
 麻薬組織を壊滅しに行った?」
「それもこの近くで銃撃戦をやっているみたいなの・・・・・・」
バカバカぁっ!!
勝手にどこにも行かないって、約束したじゃない!
よ〜し・・・、今度はお買い物に付き合ってもらうからね!

私が戻ってくる頃には、彼も同時に帰ってきた。
その姿は戦闘の凄まじさを物語るようにあちこちボロボロになっていた。
「どうやら、そっちもカタがついたようだね」
頬に擦り傷を残したまま、彼は笑っていた。
こっちの気も知らないで・・・・・・。
「バカッ!!」
「え?」
「せっかくの結婚式なのに、なんでボロボロなのよ!」
「い、いや〜、これは・・・・・・」
「約束破ったんだからね!
 新婚旅行は、トコトン引っ張りまわしてあげるんだから!!」
「は・・・はい・・・・・・」(汗)
「それから、新しいお約束第5条!
 私の知らない所で危ない事をしない!!」
「げ・・・増えやがった・・・・・・」
口元を引き攣らせながら、彼はゆっくりと頷いた。


「ただいま」
「おかえりなさい」
玄関を嬉しそうに開ける楓子はいつもと違った雰囲気が漂っていた。
「どうしたんだ?」
「だって、隆君が久々に帰ってきたんだもん!
 嬉しくてしょうがないもの」
ははは・・・奥さんになっても相変わらずか。
「それよりもね、もっと嬉しい事があったの」
「なんだ?」
「とにかく、早く入って」
「はいはい」
俺は彼女に手を引かれながら部屋に入った。
寝室に入ると、楓子は着ている服をめくった。
あれから6ヶ月くらい経ったが、結構お腹も大きくなった。
「もうすぐ、生まれるね」
そっと、楓子のお腹を撫でるとピクッと動いた。
「あ・・・動いた」
「へへ・・・でしょう?」
「頑張らなきゃな、もうすぐお父さんになるし・・・・・・」
「うん・・・名前はもう決めたの?」
「まさか!男か女かもわからないのに決められるわけないだろう?」
「・・・男の子だって」
あの時と変わらない満面な笑顔で楓子は言った。
「それにね。
 もう名前は決まっているの」
「へえ・・・で、どんな名前なんだい?」
「・・・隆一・・・」
「りゅういち?」
「うん!あなたみたいに一番強くなれる子になれますようにって・・・・・・」
俺みたいにか・・・。
それは危険な奴になりそうだな。
「隆君」
「ん?」
「私たち、いいお父さんとお母さんになろうね?」
「ああ・・・」
そう頷くと、まだ幼い母親にそっとキスをした。
タンスの上に飾られてある、写真立てがキラッと光った。
それは高校時代最後に旅をした俺と楓子の写真だった。


(END)


あとがき


隆君、楓子ちゃん、結婚おめでとう〜〜〜〜〜〜!!
せいぜい子供の前ではみっともない格好を見せちゃダメだよ。
それにしても・・・結婚式でもあんたは戦ってばかりかい!
完全に親父さん似だな・・・。
・・・と、言う事は生まれてくる子も隆と同じ性格ということか・・・・・・。
た、大変だ〜〜。
親子2代で修羅場を潜るわけですか・・・・・・。
ちゃんと身辺整理が出来る子に育つ事に期待しよう。
楓子ちゃんも隆君の影響を受けて、戦っているし・・・・・・・。
夫婦して恐ろしいかもしれないなぁ。
新しいお約束追加!?
一体、どこまで続くだろうか?
このお約束条例は・・・・・・。

☆管理人のひとり言☆


やはり、バトル野郎の血は優性遺伝なのかっ!?
まったく…隆君っ!
君はもう少し整理整頓という言葉を覚えなければいけないよ。
身辺整理をしたつもりって……出来てないから。(汗)
楓子ちゃん、頼むから隆一君はちゃんと育ててね。
……無理だと思うけど。(涙)

しかしなぁ…この隆君の息子だろ?
……楓子とのお約束条項のほかに、ママとのお約束条項が出来そうな匂いがするね。
しかも、お隣の幼馴染に惚れられて、1人で街に遊びに出かけたときにあった女の子に惚れられて…。
学校の女の子に惚れられて……着実に修羅場を作っていくんだろうなぁ〜。
この親にしてこの子あり。 蛙の子は蛙。
16年後には、隆以上の修羅場生活を送ることは必至だな。
…あ、でも待てよ。
お隣の女の子は浩一郎の娘なわけだから……。
おっとっ!? 浮気をするなり、バイオレンス、バイオレンスっ!!
ここは、幼馴染に期待しよう。

すばらしい作品、ありがとうございました。